研究概要 |
腹腔内に液体を注入し腹膜腔を拡張し、傍大動脈リンパ節、子宮、前立腺をターゲットとして放射線治療を行う際に、どのような利点があるかを実際の症例を用いて検討を行った。対象は過去に複数回のCT撮影が行われ、1回は腹水貯留の状態で、1回は腹水が無い状態で撮像された症例10例である。腹水貯留の原因の多くは肝硬変、心不全など癌以外のものであった。これらの画像をDICOM形式で治療計画コンピュータに転送し、それぞれの症例で腹水があるときと無いときで、膨大動脈リンパ節、傍腸骨動脈リンパ節(以上は直径2cmの仮想の構造を入力した)、子宮、前立腺に対して4門のボックス照射で治療計画を施行し、ターゲットに70Gy照射した際の直腸、腸管、膀胱のV70,V50(それぞれ70Gy,50Gy照射される体積の%)を算出した。すなわちV70,V50が小さいほど放射線治療による副作用が軽減されることが期待でされた。前立腺の放射線治療では腹水の有無による直腸、膀胱のV70,V50には著変を認めず、腹水注入の効果が得られる可能性は低いと考えられた。子宮の放射線治療では腹水の有無により直腸のV70,V50は不変であるが膀胱のV70,V50は小さくなる傾向が認められ、膀胱障害を減ずる可能性が示唆された。傍大動脈リンパ節では腹水の有無による腸管のV70,V50の大きな変化は認められなかった。大動脈分岐部下のリンパ節では腸管のV70,V50が若干ではあるが低下することが示された。ターゲットサイズが大きい場合、肝表面の腫瘍に対する放射線治療などでは腹水の存在によりさらに正常組織の被爆線量を低下効果は顕著であった。適応を限定すれば、腹水の注入による正常組織障害軽減の試みは有用である可能性が高く、さらに症例を増すとともに肝、膵、など他の臓器のターゲットへの放射線治療の際に予想される腹水の影響の検討も今後必要である。
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