我々は大動脈解離に対してステントグラフトによるエントリー閉鎖術が有効であることをすでに実験及び臨床例において証明した。しかし、ステントグラフトに使用するデリバリー・システムは18Frあるいは20Frと非常に太く、このため全症例で動脈切開が必要となる。また、偽腔による圧迫のために大動脈以下が著しく狭小化している場合、デリバリー・システムをすすめることに困難を生じることも予想される。本研究の目的は大動脈解離症例において従来のステントグラフトと異なり、経皮的に挿入可能な、すなわち14Frまでのデリバリー・システムで内挿可能なステントグラフトを開発し、より低い侵襲で効果的に大動脈解離を治療するものである。 経皮的挿入可能なステントグラフトとして2種類のデバイスを開発した。ひとつはエントリーの形状にあわせたパッチ状のグラフトを取り付けたステント(パッチ付きステント)である。もうひとつは2個のステントを3〜5cmのストラットで連結し、このステントの間にグラフトを装着したステントグラフトで、これを留置した後にグラフトをベア・ステントで固定するものである(分離型ステントグラフト)。いずれも最終的には10Frのデリバリー・システムに挿入可能となった。 成犬を用いた実験では、分離型ステントグラフトでは2頭の成犬の肋間動脈の閉鎖に成功した。一方、パッチ付きステントを使用した1頭では腎動脈の閉鎖は得られなかった。同じステントの追加によって腎動脈の閉鎖に成功したものの、予定していた右腎動脈に加えて左腎動脈も閉塞してしまった。他の1頭では、ステント追加を行っても肋間動脈の閉鎖は得られなかった。 今後はパッチ付きステントにおいて、パッチの位置が確認可能な目印の装着、パッチ付きステント留置後にベア・ステントを追加することでパッチによる確実な動脈の閉鎖を試み、さらに最終的に大動脈解離を作製した成犬を用いてエントリー閉鎖の実験を行う予定である。
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