ヨード取り込み能力を失った甲状腺癌組織のモデルとして国際的にも標準とされている3種のヒト株化甲状腺癌細胞NPO、FRO、WROに対して、通電法によりヒトNISのcDNAを導入することを試みたところ、これまでのところFROにおいて良い結果が得られている。作成した多くのクローンの中から、I-125を用いてヨード摂取能を測定し、特に強い活性(反応液中のヨードの20%以上を取り込む)のもの5個を選んで、その後の解析に用いた。洗い出し(efflux)を調べる実験によって、NIS遺伝子を発現させた癌細胞クローンはいずれも放射性ヨードは取り込むが、保持はほとんどできないことが明らかとなった。これは山梨医科大学の志村らのラット甲状腺癌モデルの成績とも合致し、研究計画の段階である程度は予想されていたことでもあった。 単独の遺伝子導入だけでは、治療効果が期待できないことが確認されたことを受けて、ヨード保持能を高める目的で、NISと甲状腺ペルオキシダー一ゼ(TPO)を共発現させる検討を開始した。当初はNISとTPOの両者のcDNAがつながって挿入されているベクターを野生株のFROに導入ることを試みたが、これまでのところ、ヨード摂取能の強い良いクローンが得られていない。そこで、これと平行して、すでにNISのcDNAが入っているクローンにTPO遺伝子を導入する方法への準備を開始した。NISのcDNAを含むベクターの選択に使ったネオマイシンとは別の物質に耐性を与える遺伝子とTPOのcDNAをつないだ新たなベクターを作成して、導入にとりかったところである。
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