放射線治療の照射野辺縁におけるがん細胞の浸潤能の解析

2001 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13670936
• 研究機関: 大阪大学
• 研究代表者: 手島 昭樹 大阪大学, 医学部, 助教授 (40136049)
• 研究分担者: 松浦 成明 大阪大学, 医学部, 教授 (70190402)
• キーワード: 放射線治療 / がん浸潤 / がん転移 / 欠陥新生 / X線 / 重粒子線 / 炭素線 / インテグリン

研究概要

目的:がん細胞の接着、浸潤に及ぼす放射線の影響を研究することにより、臨床で常に問題となる照射範囲設定時の周辺安全域Safety zoneについて経験則のみに依存しない科学的定量データを求める。
方法と材料:X線および重粒子(炭素線)を用いてヒト繊維肉腫細胞HT1080、ヒト前立腺癌細胞DU145、ヒト腫瘍化血管内皮細胞ECV304、ヒト血管内皮細胞HUVECにそれぞれ0Gy〜16Gy,0Gy〜8Gy(照射野辺縁線量に相当)照射し、(1)Flow cytmetryによる血管内皮細胞のαVβ3integrin発現レベル、(2)血管内皮細胞のαVβ3のリガンドであるvitronectin, osteopontinとの接着性、(3)腫瘍、血管内皮細胞の遊走能の、(4)腫瘍細胞の浸潤能、(5)Zymographyによる腫瘍、血管内皮細胞のMMP-2活性、(6)Collagen embedded culture法による血管内皮細胞の管腔形成能を解析した。
結果:(1)integrinの発現はX線で増加し、炭素線では減少した。(2)接着性はX線で亢進し、炭素線では抑制されていた。(3)遊走能はX線で冗進したが、DU145の16Gyでは抑制された。炭素線では抑制された。(4)浸潤能は低線量X線照射で亢進し、炭素線では低線量照射でも著明に抑制された。(5)MMP-2活性はX線では亢進し、炭素線では抑制された。(6)血管内皮細胞の管腔形成は、X線では抑制されず、炭素線では抑制された。
結語:X線照射では照射野辺縁域の亜致死線量で腫瘍細胞の浸潤能、血管新生能が亢進していた。重粒子線ではいずれも抑制されていた。X線では照射野辺縁域の設定に細心の注意が必要であり、浸潤能の定量データを得た。重粒子では浸潤転移の面からも有効性が明らかになったので、現在、上流の分子メカニズムの解明や他の腫瘍細胞での検討を進めている。

研究成果

• [文献書誌] 手島 昭樹他: "重粒子によるがんの転移過程の及ぼす影響(13B132)"平成13年度放射線医学総合研究所共同利用研究課題報告書. (印刷中). (2002)
• [文献書誌] Tanisada k, et al.: "Patterns of Care Study quantitative evaluation of the quality of radiotherapy in Japan"Cancer. (in press). (2002)
• [文献書誌] Yoshioka Y., et al.: "Proposal of a new grading system for evaluation of tongue hemiatrophy as a late effect of brachytherapy"Radiotherapy and Oncology. 61. 87-92 (2001)
• [文献書誌] Uno T., et al.: "Radiation therapy for small-cell lung cancer : Results of the 1995-1997 Patterns of Care Process survey in Japan"Lung Cancer. 35. 279-285 (2002)
• [文献書誌] Inoue T., et al.: "Phase III trial of high-vs. low-dose-rate interstitial radiotherapy for early mobile tongue cancer"Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys. 51. 171-175 (2001)
• [文献書誌] Hayashi M., et al.: "Automatic search for optimal conditions in clinical studies"Anticancer Reseach. 21. 1371-1374 (2001)
• [文献書誌] 高橋 豊他: "重粒子によるがんの転移過程の及ぽす影響(13B132)"平成13年度放射線医学総合研究所共同利用研究課題報告会. (発表予定). (2002)
• [文献書誌] Yamazaki H., et al.: "Renal cortical retention on delayed CT and nephropathy following transcatheter arterial chemoembolisation"The British Journal of Radiology. 74. 695-700 (2001)
• [文献書誌] Imai A., et al.: "The future demand for and structural problems of Japanese Radiotherapy"Jpn. J. Clin. Oncol.. 31. 135-141 (2001)
• [文献書誌] 手島昭樹他: "PCS:米国の状況、方法論と意義"癌の臨床(PCSによる放射線治療の現状). 47. 623-628 (2001)
• [文献書誌] 手島昭樹他: "PCSにおけるITの導入と意義"癌の臨床(PCSによる放射線治療の現状). 47. 629-635 (2001)
• [文献書誌] 井上俊彦他: "わが国における放射線治療の臨床的精度管理QA確立の歩み"癌の臨床(PCSによる放射線治療の現状). 47. 617-622 (2001)
• [文献書誌] 手島 昭樹(分担): "放射線治療学"井上俊彦 編, 南山堂. 451 (2001)
• [文献書誌] 手島昭樹(分担): "放射線治療学マニュアル"平岡眞寛, 笹井啓資, 井上俊彦 編, 中外医学社. 570 (2001)