研究概要 |
目的:がん細胞の接着、浸潤、血管新生に及ぼす放射線の影響を研究することにより、臨床で常に問題となる照射範囲設定時の周辺安全域Safety zoneについて経験則のみに依存しない科学的定量データを求める。 方法と材料:照射は4MVX線,放射線医学総合研究所HIMACの炭素線、兵庫県粒子線医療センター陽子線を使用した。CHO, PC-3,DU145,SAS/neo, SAS/mp53,HT1080,HT1080-mA9,MAG-F5,YKG-1を用いてX線による接着能、浸潤能、運動能を定量評価した。HT1080、DU145を用いて炭素線、陽子線による同様の機能、MMP-2の活動性、MT1-MMP1,TIMP2のregulationを、X線との比較のもとに評価した。ECV304,HUVECを用いて炭素線、陽子線による血管新生能(3D培養)、MMP-2の活動性、αVβ3 integrin, MT1-MMP, TIMP-2のregulationを、X線との比較のもとに評価した。 結果:(1)X線においては、多くのがん腫で程度の違いはあるが、亜致死線量レベルで、浸潤、転移能の亢進を観察した。(2)重粒子線、陽子線では、亜致死線量照射により、浸潤性は有意に抑制されていた。MMP-2活動性の軽度の抑制とMT1-MMP1のdown-regulationとTIMP2のup-regulationが同時に観察された。(3)重粒子線、陽子線では、血管新生を亜致死線量でも予防できる可能性が示された。 結語:X線照射では照射野辺縁域の亜致死線量で腫瘍細胞の浸潤能、血管新生能が亢進していた。重粒子線、陽子線ではいずれも抑制されていた。X線では照射野辺縁域の設定に細心の注意が必要であり、浸潤能の定量データを得た。重粒子、陽子線では浸潤転移の面からも有効性が明らかになったので、現在、上流の分子メカニズムの解明や他の腫瘍細胞での検討を進めている。
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