温熱処理によって、DNA-PKは失活する。温熱処理後、細胞を37℃に戻して培養を行うと熱失活したDNA-PKは回復する。我々はDNA-PKの熱失括はDNA-PK複合体のKu70/80ヘテロ二量体の一方又は両方の熱失括が原因であることを明らかにしている。 温熱処理した細胞をシクロヘキシミド存在下で培養しても活性の回復がみられる。このことから活性の回復では失活した蛋白が再活性化しており、熱失活したDNA-PKの回復には熱ショック蛋白質が関与していると考えられる。 温熱処理によって失活する蛋白質を調べる為に、Ku70/80ヘテロ二量体の一方を高発現する細胞を作成した。温熱処理した細胞の抽出液を電気泳動後、ニトロセルロース膜に転写し、ウェスタンブロット法で温熱処理後の量の変化を調べた。Ku70蛋白量は温熱処理時間に伴って減少した。一方、Ku80の量は温熱処理時間の影響を受けなかった。DNA-PK活性の温熱処理による失活もKu70を高発現させた細胞ではKu80を高発現させた細胞よりも遅れた。以上の結果から、Ku70の熱失活がDNA-PKの熱失活の主な原因であることが明らかになった。 次に、HSC73を高発現させた細胞を用いて、温熱処理後の活性の回復を調べたところ、HSC73を高発現させた細胞のDNA-PK活性の回復はベクターのみを導入した細胞より有意に早かった。 温熱処理した細胞の核蛋白質を抗Ku蛋白抗体で沈降させ、SDSゲル電気泳動後抗HSC73抗体でウエスタンブロットを行うと、HSC73の濃度は培養時間に伴って増加し、3時間で最大となった。この時間は熱失活したDNA-PKが最も回復する時間と一致した。 以上の結果から、HSC73が熱失括DNA-PKの回復に働いている事が確認された。今後、HSC73の発現をRNAiで抑制し、DNA-PKの回復を調べることを予定している。
|