放射線によるDNA傷害の初期修復機構に関する研究

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13670976
• 研究機関: 国立感染症研究所
• 研究代表者: 葛西 正孝 国立感染症研究所, 免疫部, 主任研究員 (10142134)
• キーワード: 遺伝子欠損マウス / 放射線感受性 / DNA-PK / Translin

研究概要

(1)Translin蛋白の細胞分裂における役割
Translin蛋白の発現は、細胞周期に依存した制御機構によって厳密に調節されている。
研究代表者は、体細胞分裂期におけるTranslin蛋白の細胞内局在を共焦点顕微鏡によって詳細に解析した。その結果、細胞分裂前期のcentrosome(中心体)、中期のspindle fiber(紡錘糸)、後期・終期のmidbodyにTranslin蛋白が局在することを明らかにした。しかも、Translin抗体で染色される細胞内部位は、tubulin抗体による染色部位とほぼ一致した。以上の結果は、Translin蛋白が染色体分配機構に働いて細胞分裂に重要な役割を果たしていることを示唆している。
(2)Translin遺伝子欠損マウスと放射線感受性
Translin遺伝子欠損マウスの作製は、以下のように行われ、大きな成果が得られた。
1.Translin遺伝子欠損ES細胞をマウス初期胚に導入し、偽妊娠マウスに移植した。
2.ES細胞が、生殖系列に分化したキメラのかけあわせで遺伝子欠損マウスを作製した。
Translin遺伝子欠損マウスは、野生型マウスと比較して極めて小さく、体重は約1/2であった。血液中のリンパ球の形成も未熟な段階で停止して、細胞数も減少していることが明らかとなった。Translin蛋白の核内局在は、放射線によって影響されるが、遺伝子欠損マウスの放射線感受性に変化は認められなかった。この理由として、Translin遺伝子欠損マウスでは、DNA損傷の修復に係わるDNA-dependent protein kinase (DNA-PK)の発現が急激に上昇することが挙げられる。すなわち、TranslinとDNA-PKは、放射線によるDNA傷害の修復という類似した機構に相補的な役割を担っている。

研究成果

• [文献書誌] Sugiura, I: "Crystal structure of human Translin at 2.2A resolution"ActaCryst.D. (In press). (2003)
• [文献書誌] Ishida, R: "A role for the octameric ring protein, Translin, in mitotic cell division"FEBS Lett.. 525. 105-110 (2002)
• [文献書誌] VanLoock, M.: "Electron Microscopic Studies of the Translin Octomeric Ring"J. Struct. Biol.. 135. 58-66 (2002)
• [文献書誌] Fuks, F.: "Dnmt3a binds deacetylases and is recruited by a sequence-specific repressor to silence transcription"EMBO J. 20. 2536-2544 (2001)
• [文献書誌] Hosaka, T.: "Translin binds to the sequences adjacent to the breakpoints of the TLS and CHOP genes in liposarcomas with translocation t(12;6)"Oncogene. 19. 5821-5825 (2000)
• [文献書誌] Meng, G.: "Genomic structure and chromosomal localization of the gene encoding TRAX, a Translin-associated factor X"J. Hum. Genet.. 45. 305-308 (2000)