本研究の目的は、睡眠・概日リズム調節機能の生理的及び病的老化過程とその発現メカニズムを解明し、効果的な睡眠調整法を開発することにある。研究初年度である本年度は、蛍光標識した配列特異的オリゴヌクレオチドを用いたRT-PCR法により、ヒト末梢循環白血球細胞を試料としたhuman period 1 homolog遺伝子mRNA(hper 1 mRNA)の定量法を確立した。 1)PCR用プライマーの設計及び増幅試験を行い、以下のプライマーセットによりhper 1遺伝子領域のPCR産物が安定的に得られることを、電気泳動及び直接シークエンスにより確認した。 (upper)5'-AgCAgCAgCCTCggTTTT-3'/(lower)5'-CTCCTCCTCCATAgCCAAgT-3' 2)上記プライマーを用いて増幅・精製したPCR産物をT-ベクター(Novagen社)にライゲーションさせ、大腸菌にトランスフオームした。その後、既知の方法で、培養、プラスミドベクターの精製を行うことにより、hper 1(30μg/μ1)の検量線用の標準物質を作成した。 3)hper 1遺伝子用蛍光標識オリゴヌクレオチドは、5'-ATggCCTgTggACTgTggg-3'-フルオレセイン、及び、LCR-5'-gCAgCACCCAAgATCCTggTC-3'-pに設定し、種々のPCR条件下での増幅率について検討を行った結果、安定的かつ再現性の高い増幅曲線が得られた。 4)対象成人10名中8名において、平均入眠時刻の12時間後に採取した末梢白血球細胞においてhper1 mRNAの発現が認められた。 5)hper1mRNA発現量の日内変動に関する予備的検討を、.健常成人2名で行った。この2名では、hper1mRNA発現量は明期に高く暗期に低い相似した日内変動を示した。この際のmRNA発現量の実測値は2名の測定者間で極めて高い一致が認められ、測定系の安定性が高いものと推測された。本研究で得られたヒト末梢循環白血球細胞内でのhper1mRNA発現の日内変動パターン(位相)は、留歯類の視交叉上核細胞内でのper1 mRNA発現のそれに極めて相似していた。
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