本研究では、生物時計から末梢器官への概日リズムシグナルの液性伝達モデルであるヒト末梢循環白血球内での時計遺伝子の発現定量法開発と、その発現リズム特性の同定をめざした。初年度は全白血球内での、次年度は遡立相の機能リズムピークを示す単核球および多核球分画内での時計遺伝子発現の定量法を開発した。測定対象遺伝子は、human period1 homolog(hPer1;GenBahk Accession number AB002107)、human BMAL1a homolog(hBmal1;#D89722)、および内部標準用ハウスキーピング遺伝子(β-actin)である。改良型の手法により採取した全白血球分画、もしくは単核球および多核球分画から磁性ビーズ法によりmRNAを直接抽出し、AMVによりfirst-strand cDNAを作成した。別に設計および増幅試験を行ったプライマーを用いて各遺伝子標的領域のPCR産物を得て、既知の方法で検量線用プラスミド(30μg/μl)を作成した。フルオレセインおよびLCRd640蛍光標識した配列特異的オリゴヌクレオチドを用いたReal Time-PCR法によりmRNA発現定量を行った。平均覚醒時刻の3-4時間後では、健常成人6名全例で生物時計からの直接的な神経投射を受けないヒト単核球・多核球細胞においてもhPer1およびhBmal1が発現していることが示された。また、単核球内では両遺伝子の発現レベルはほぼ同等であったのに対して、多核球内ではhPer1に比較してhBmal1の発現が4〜5倍亢進していた。hPer1転写リズムに関する予備的検討を健常成人4名の全白血球試料で行った結果、齧歯類視交叉上核細胞内での転写リズムに極めて相似した、明期に高く暗期に低い再現性の高い変動パターンを示し、この系が概日シグナルの液性伝達モデルとして妥当であることが示唆された。
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