近年、精神分裂病の病因として神経発達障害の関与が想定され、そのモデルとして新生仔期に腹側海馬を傷害した(Neonatal Ventral Hippocampal Lesion ; NVHL)ラットを用いた研究が行われている。このラットは思春期後に初めて行動異常を呈するため、精神分裂病の発症の機序を包含した動物モデルと考えられている。本研究では、NVHLラットにコカインを反復投与し精神分裂病の再燃の薬理学的モデルである行動感作が成立するか否かを検討し、より精神分裂病に近似した動物モデルの作成を試みた。 Sprague-Dawley雄性の生後7日のラットを用いた。定位脳手術で両側の腹側海馬にイボテン酸を1.5μgづつシリンジポンプにて注入した(Lesion群)。対照として同量のPBS緩衝液を注入した(Sham群)。ラットの思春期後に相当する生後49日に両群にコカイン(20mg/kg)を7目間連続投与し、投与1、4、7日目の行動量と、投与終了後1週間の離脱期間をおいてコカインを再投与して行動量を測定した。 その結果、1.NVHLラットにコカインを7日間連続投与し、7日間の断薬後コカインを再投与することによりLesion群、Sham群ともに行動感作が成立した。2.NVHLラットでは、Sham群に比して常同行動が長時間持続することが確認され、行動感作の程度が異なる可能性が示唆された。3.NVHLラットにコカインを連続投与して行動感作を成立させることで精神分裂病の発症と再発の病態生理を内包した、より精神分裂病に近い従来にない動物モデルが作成できると考えられた。
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