側頭葉てんかんは、成人の難治てんかんの中で最も頻度の高いてんかんである。その病理所見としては、海馬の神経細胞の消失とグリオーシスからなる海馬硬化を認める場合が多く、海馬硬化が著しい時には、薬物治療が無効で、外科的手術の適応になる場合がある。さて、てんかん発作の発現機序としては、抑制性GABA系の脱抑制と興奮性アミノ酸系の伝達増強が主要な役割を果たしていると考えられているが、その他に、5-HT系やドーパミン系も、発作にたいして抑制的にあるいは促進的にはたらく調節系として関連していることがわかっている。 われわれは、PETトレーサ、[^<11>C]WAY 100653(5-HT_<1A>受容体)を用いて、側頭葉てんかん患者における5-HT_<1A>受容体の異常を調べた。また、[^<11>C]frumazenil(GABA受容体)を用いたPET検査の結果と比較した。その結果、(1)脳血流や形態の変化がなくても焦点側により強い、5-HT_<1A>受容体結合能の低下を認めた。(2)難治例では5-HT_<1A>受容体の低下が焦点と反対側にまで及んでおり、より広範な5-HT系の機能変化が認められた。(3)[^<11>C]frumazenilを用いたPET検査との比較では、5-HT_<1A>受容体の低下領域は、GABA受容体の低下領域よりもより広い領域におよぶ傾向が認められた。5-HT_<1A>受容体は海馬に豊富に分布し、動物実験では海馬キンドリング発作に抑制的に働くことが知られている。今回観察された5-HT_<1A>受容体の低下は、側頭葉における抑制系の機能低下を反映する所見と思われた。[^<11>C]WAY 100653を用いたレセプターイメージングはてんかんの焦点診断のための有力な検査法になると思われた。
|