研究概要 |
本研究は、家族性アルツハイマー病(AD)のアミロイド前駆体蛋白遺伝子変異(APP)6例とプレセニリン1遺伝子変異(PS4)7例、葬家族性ADではアポリポ蛋白E(Apo-E)e4対立遺伝子の保有個数が異なる例(計33例)、正常対照6例で、海馬皮質亜野での神経細胞脱落と神経原線維変化(NFT)形成を定量的に解析し、これらの遺伝子と神経細胞死との関連について検討した。方法は海馬前額断でKluver-Barrera染色とGallyas-HE染色を行い、海馬体をCA4,CA3,CA2,CA1,subiculumの5亜野に分けて観察し、NFTを有しない核小体の明瞭な神経細胞、核小体が明瞭な神経細胞内の原線維変化(i-NFT)神経外原線維変化(e-NFT)の密度を測定し、罹病期間、神経細胞脱落の程度、神経原線維変化の程度との関連を調査した。その結果、APP717例では、CA2とCA1において非家族例よりもNFT形成が高度で、罹病期間に非家族例との差が認められないことから、この部位ではAPP717遺伝子変異がNFT形成に強く影響していることが示唆された。PS-1例では、CA3とCA2、CA1で対照例や非家族性例よりも神経細胞脱落が強くNFT形成も高度であった。PS-1例ではCA2やCA1に加え、CA3でも神経細胞脱落とNFT形成に関与していた。またPS-1例ではi-NFT密度は非家族例と有意差がないがe-NFT密度はCA各亜野において有意に増加していることから、PS4がi-NFT(NFTを持ちながら生存している神経細胞)からe-NFT(神経細胞死)への過程に関与している可能性がある。またApoE e4対立遺伝子のNFT形成への関与は、特にCA1で強いことが示された。CA2はApo-E e4の影響をうけにくい部位であった。
|