現在の精神科治療の現場に目をむけると、大半の精神科医が精神疾患の薬物による治療を中心におこなっているにもかかわらず、向精神薬の種類・投与量の決定といった薬物治療計画の立案は「やま勘的」ないしは「職人芸的」であり、その理論的根拠は甚だ希薄である。ポストゲノム時代を迎えようとしている現在、「最大の臨床効果・最小の副作用」とするためには各個体のもつゲノム情報を含む変数の包括的に処理できる方法が必要となる。本研究は今日ではどの研究室でも容易になっているpolymerase chain reaction法などの分子生物学的手法によってCYP2D6、glucurnoyl-transferaseといった薬物代謝酵素およびうつ病の病態生理への関連が想定されている神経伝達物質であるセロトニン・ノルアドレナリンのトランスポーター遺伝子を解析し、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)に対する臨床効果を予測できるか否かを検討し、精神科薬物治療技術の向上をめざし、個体の特性を無視した画一的な精神科薬物治療から「個体重視」の「オーダーメイド的」精神科薬物治療をめざすものである。平成14年度では平成13年度に解析した12名のパロキセチンにて治療中の患者のサンプルに加え、総計で44名よりのデータを解析した結果、パロキセチンの一日投与量が10mgでの定常血漿中濃度と比較して、20mgでは3.0倍、30mgでは6.66倍、40mgでは6.24倍であり、非線形の動態を示していることが分かった。CYP2D6遺伝子型との関連ではCYP2D6変異遺伝子の数が0、1、2の各群間で、血漿中パロキセチン濃度の変化の分布には明らかな差がなく、有意差は認められなかった。
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