研究概要 |
オーファン核内レセプターに属する転写因子であるNurr 1は中脳ドパミン作動性神経終末の分化に重要な役割をもち、発達や痙攣などによる神経可塑性への関与が示唆されている。Nurr 1 mRNAの発現について1)フェンシクリジン(PCP)急性投与前に抗精神病薬投与処置を施した効果、2)メタンフェタミン(METH)急性投与によって誘発されるmRNA発現に与える慢性リチウム投与の影響について検討した。1)抗精神病薬前処置としてhaloperidol 2mg/kg, risperidone 2mg/kg, olanzapine 10mg/kg, clozapine 20mg/kgまたは生食を投与し、1時間後にPCP 10mg/kgを投与し、その1時間後に断頭した。PCP急性投与による大脳皮質でのNurr 1のmRNA発現増加はolanzapine, clozapineの前処置によってほぼ完全に阻止されたが、haloperidol, risperidoneの前処置では阻止されなかった。なお、これらの抗精神病薬単独投与では生食投与と比較して有意なmRNA発現の変化は引き起こされなかった。2)塩化リチウム0.06%を含む餌を1週間、同0.1%を含む餌を1週間、摂取させ、対照群のラットには塩化リチウムを含まない餌で飼育した。正常餌、リチウム含有餌で2週間飼育されたラットに生食またはMETH 4mg/kgを投与、その1時間後に断頭した。METH急性投与によって広汎な大脳皮質でNurr 1のmRNA発現が増加した。retrosplenial cortexでの発現はリチウム餌飼育群で有意に抑制されたが、それ以外の部位では有意な影響はなかった。PCP急性投与によってNurr 1のmRNA発現がolanzapine, clozapineによって阻止されたことは、これらの非定型抗精神病薬がNMDA型グルタミン酸受容体拮抗作用を介する精神症状や行動を改善させるという仮説に矛盾していないと考えられる。リチウムの作用機序は細胞内情報伝達系を巡って議論されているが、不明な点も多く残されており、今後の検討が必要である。
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