研究概要 |
メタンフェタミン(METH)による行動感作(逆耐性現象)の機序はシナプス統合のパターンなど持続的な構造変化を基礎にした神経可塑性と考えられ、脳内前シナプス側蛋白と転写因子Nurr1のmRNAについてラットを用いて2つの研究を行った。また統合失調症の陽性症状・陰性症状のモデルとされるフェンシクリジン(PCP)の急性投与による転写因子Nurr1のmRNAの発現に対する抗精神病薬前処置の影響について1つの研究を行った。 1.METH急性・慢性投与による脳内前シナプス側蛋白mRNAの変化 METH4mg/kg急性投与による線条体、歯状回でのSNAP25aのmRNA発現増加、及びMETH急性投与による線条体、側坐核でのsynaptotagminIVのmRNA発現増加はドパミンD1受容体拮抗薬SCH23390の前処置によって阻止された。METH慢性投与(4mg/kg/day,14日間)終了から3週間目に生食をチャレンジしたMS群では生食を反復投与して生食をチャレンジしたSS群に比べSNAP25aのmRNAが線条体、側坐核で有意に増加していた。METHを慢性投与してMETHをチャレンジしたMM群では生食を慢性投与してMETHをチャレンジしたSM群に比べ線条体、側坐核、体性感覚皮質、歯状回に於けるsynaptotagminIVのmRNAが有意な増加を示した。 2.METH急性・慢性投与による脳内転写因子Nurr1 mRNAの変化 METH4mg/kg急性投与(4mg/kg)によりNurr1のmRNA発現は大脳皮質、海馬CA1、黒質緻密層、腹側被蓋野に於いて増加し、これはSCH23390の前処置によって阻止された。SS群に比べMS群では内側前頭皮質、体性感覚皮質、腹側被蓋野でNurr1 mRNAが有意に増加した。 3.PCP急性投与による転写因子Nurr1 mRNAの発現に対する抗精神病薬前処置の影響 PCP急性投与(10mg/kg)によってNurr1のmRNAは大脳皮質の広汎な部位で有意に増加した。PCP急性投与による大脳皮質(内側前頭皮質、体性感覚皮質、視覚皮質、後部帯状回皮質)でのNurr1のmRNA発現増加は非定型抗精神病薬であるolanzapine, clozapineの前処置によってほぼ完全に阻止されたが、haloperidol, risperidoneの前処置では阻止されなかった。なお、これらの抗精神病薬単独投与では生食投与と比較して有意なmRNA発現の変化は引き起こされなかった。
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