薬物依存の脆弱性を規定する遺伝子ファクターを特定するため、本邦で最も乱用され、また、重大な社会問題となっている覚せい剤依存、および覚せい剤精神病において研究をした。まず、患者からのDNAサンプル収集と患者背景、特に乱用時期、乱用方法、使用から精神病発現までの期間、治療後の改善度、フラッシュバックの有無、多剤乱用の有無などを聴取した。全部で132人の患者サンプルを得た。また、同時に健常対照者161名についてもDNAを収集した。まず、初年度では覚せい剤の一次作用部位であるドパミントランスポーター(以下hDAT1)に焦点を当て、その遺伝子多型4ヶ所(エクソン2の242C/T、エクソン9の1342A/G、3'非翻訳部位の2319G/AとVNTR)を調べた。その結果、いずれの多型も、覚せい剤依存全体または覚せい剤精神病全体とは有意な相関は示さなかった。しかし、症状の層別解析では、覚せい剤精神病の遷延型(治療後1ヶ月以上精神病が持続するもの)では3'非翻訳部位の1342A/G多型のrare alleleであるA alleleが多い傾向に、またVNTR多型で10回リピート以外のnon-common alleleが有意に多かった。この結果から、ドパミントランスポーター遺伝子ではnon-commonアレルは依存行動そのものには影響しないが、一旦覚せい剤精神病を発症すると難治性になりやすいことがあきらかとなり、覚せい剤精神病の予後に遺伝要因が影響することが示された。
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