これまで、覚せい剤依存および覚せい剤精神病における遺伝子リスクファクターを遺伝子相関法により検討してきた。ドパミン関連遺伝子から解析を始め、その結果、これらが強力な危険因子であること、特にドパミントランスポーター遺伝子とドパミンD2受容体遺伝子多型が覚せい剤精神病の予後に大きな影響を与えることを明らかにしてきた。本年度はドパミン系以外の遺伝子について解析をした。候補遺伝子としてオピオイド系のdynorphinをコードするprodynorphin遺伝子と、最近、日本人統合失調症、特に妄想型の発症予防因子であることが発見されたdihydropyrimidinaselike-2(以下DRP-2)遺伝子について検討した。 prodynorphin遺伝子VNTRでは1-4リピートの4種類のアレルがあり、その頻度は、3.8%、81.6%、13.4%、1.2%であり、ヨーロッパ系白人、ヒスパニック系白人、アフリカ系アメリカ人のいずれとも大きく異なり、民族差があることがわかった。疾患では覚せい剤依存および覚せい剤精神病は遺伝子型で有意な相関(p=0.0037および0.0057)を示し、後者はアレル頻度でも有意な相関を示した(p=0.0250)。更に、機能との関連から、1-2リピートをL(低活性)アレル、3-4リピートをH(高活性)アレルと定義すると、やはり強い相関が得られ、Hアレルのオッズ比は、覚せい剤依存症で1.82、覚せい剤精神病で1.75であった。覚せい剤依存患者の臨床パラメーターでの検討では、初回使用の年齢、初回使用から精神病発現までの潜時、治療後の寛解までの期間、フラッシュバックの有無では相関が無かったが、多剤乱用の有無ではより重度の多剤乱用(シンナー以外の大麻やコカインの使用歴)と相関を示した(Hアレルのオッズ比1.88)。DRP-2遺伝子多型では覚せい剤依存、精神病および臨床パラメーターと相関は示さなかった。以上より、prodynorphin遺伝子多型が覚せい剤依存と多剤乱用の危険因子であることが明らかとなった。
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