研究概要 |
側頭葉てんかんの神経機構を研究する目的で,カイニン酸による辺縁系発作重積モデルを用いて,海馬錐体細胞の変性・脱落と,歯状回穎粒細胞の新生について検討をおこなった.SD系雄性ラットの扁桃核に薬物微量注入用のカニューレを装着手術し,術後回復期間の後に扁桃核にカイニン酸2.4microgを微量注入した.カイニン酸投与後24時間にわたり,脳波および行動上の辺縁系発作重積状態がすべてのラットに誘発された.カイニン酸投与の5日後に,BrdU 100mg/kgを腹腔内投与し,ラットを断頭して脳切片を切り出し,抗BrdU抗体を用いて免疫組織化学染色を実施した.カイニン酸を投与しない正常ラットではBrdU陽性細胞はまったく検出されないのに対し,カイニン酸投与ラットでは海馬歯状回においてBrdU陽性細胞が,注入側で平均9.5個,反対側で平均22.0個見出され,発作重積によって顆粒細胞の新生が誘導されることが明らかにされた.錐体細胞の変性・脱落の程度と顆粒細胞の新生の間には有意な相関はなかった.次に,特異的NMDA受容体拮抗薬であるMK-801 1mg/kgを前処置して顆粒細胞新生への効果を検討したが,BrdU陽性細胞数はMK-801によって増加する傾向が認められた.本年度の研究結果から,顆粒細胞新生はてんかん原性変化として重要なシナプス再構成に関与するが,錐体細胞の変性とは独立した現象であり,またNMDA受容体賦活にも依存しない可能性が示唆される.今後は,MK-801の投与方法を増やした検討,特異的AMPA受容体拮抗薬の効果,アポトーシスとの関連,などについてさらに研究を継続したいと考えている.
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