1990年の雲仙・普賢岳噴火災害によって先祖伝来の土地を喪失した住民(故郷喪失・集団移住者)210人の協力を得て、(1)仮設住宅から集団移住を行った時期の生活と自宅生活時代を比較検討するための質問票(健康変化や生活変化など)による問診、(2)GHQ(General Health Questionnaire)30項目版を用いた全般的健康に関する住民の自己評価、(3)CAPS[Clinician-Administered PTSD Scale : DSM-IV対応の外傷後ストレス障害(PTSD)臨床診断面接尺度]による面接などを実施し、現在も追跡調査中である。 「恐らく精神的不健康状態にある」とみなされるGHQ得点が8点以上であった集団移住住民(集団移住住民の32%)の健康変化・生活変化をGHQ低得点の住民の健康変化・生活変化と比較すると、前者には、(1)仕事に大きな支障が出た、(2)生活のリズムが悪い方に変わった、(3)家庭内での役割が変わった、(4)日頃の楽しみが悪い方に変わった、(5)日頃の暮らしが退屈になった、(6)なじみの人付合いが乏しくなる方に変化した、(7)健康に自信を失った、(8)入院生活や通院回数が増えた、などが有意に多く認められた。また、GHQ得点が8点以上であった集団移住住民の割合(GHQ高得点者率)、GHQ平均得点、GHQから得られた下位尺度5因子などを第1回調査時点のそれらと比較すると、次の特性が確認された。1)GHQ高得点者率、及びGHQ平均得点は有意に改善していた。2)5因子中の4因子(「不安・緊張・不眠」因子、「無能力・社会機能障害」因子、「抑うつ」因子、「快感喪失」因子)は有意に改善していた。しかし、3)「対人関係」因子は、悪化したまま持続していた。これらの所見は、性別にみても同様であった。 CAPSによる面接は134人に実施された。DSM-IVにおけるPTSD診断基準に合致したのは17名であり、PTSD生涯有病率は26.6%であった。一方、不全型のPTSD生涯有病率は39.1%であった。面接時点のPTSD現在有病率は3.1%、不全型のPTSD現在有病率は6.3%となっていた。PTSD群と非PTSD群の間で、GHQ高得点者率、GHQ平均得点、及び下位尺度の5因子を比較したが、如何なる有意差も認めなかった。
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