研究概要 |
多動で落ち着きのない子供は多く、その原因として養育環境、胎生期の中枢神経系の障害など様々な要因が考えられている。これらの子供のうち、発達・年齢段階に比べて顕著に多動や衝動性が認められる者が、注意欠陥多動性障害、行為障害と診断される。他方、内分泌攪乱物質による環境汚染が人体に引き起こす様々な影響が問題になっているが、中枢神経系に対するそれについては余り多くの指摘はみられない。中でも、胎盤や母乳経由による子供の中枢系に対する影響に関する報告は少ないが、それが、多動で落ち着きのなさ、ひいては注意欠陥多動性障害や行為障害の原因となっている可能性もある。 そこで、我々は胎盤や母乳を介して子供が内分泌攪乱物質の一つであるダイオキシン類に汚染されることにより、脳内の神経細胞におけるセロトニン産生が影響を受けるか、マウス(ddY系)を用いて実験を行った。雌マウスにダイオキシン類の一種である2,3,7,8-TCDD(四塩化ジベンゾーパラーダイオキシン、以下ダイオキシン)をオリーブオイルに溶解し、ゾンデを用いて胃の中に直接投与した。投与は1週間に1回、8週間行ったが、投与したダイオキシン量(1回投与量)は、7x10^2Pg/kg(A群)、7x10^4pg/kg(B群)7x10^6pg/kg(C群)である。尚、対照群にはダイオキシンを含まないオリーブオイルを同等量投与した。最終投与終了後、正常雄マウスと交配し、妊娠させ、子供を得た。出生した子マウスを6週間飼育した後、還流固定を行った。還流固定終了後、脳を摘出し、前頭断切片を作製した。そして、作製した切片をセロトニン抗体などを用いてインキュベーションし、セロトニン免疫陽性細胞を染め出した。 その結果、いずれの群も標識された神経細胞は対照群と同一部位に分布していたが、標識強度は弱く標識細胞数も減少していた。以上のことから、胎盤や母乳を介してダイオキシンに汚染された子マウスでは、セロトニン産生量が減少することが証明された。
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