2・3・7・8-4塩化ダイオキシン(以下、ダイオキシンと略す)などのダイオキシン類による環境汚染が引き起こす免疫系異常、アトピー、子宮内膜症、生殖器形成異常、精子数減少、発癌性、催奇性などの様々な人体への影響が問題になっているが、中枢神経系に対する影響についての報告は少ない。一方、ダイオキシンは脂溶性であり、体内の脂肪組織に集積する傾向があり、このことは、胎盤・母乳暴露により、脳障害がもたらされる可能性が示唆される。そこで我々は、胎盤・母乳暴露による脳障害を検討する前に、ラットに大量のダイオキシンを経口摂取し、その中枢神経系への直接的な影響について検討した。ラットには、オリーブオイルに溶解したダイオキシン(50μg/kg)を胃ゾンデを用いで投与した。対照群には同等量のオリーブオイルを投与した。全部で35匹のラットを用いたが、実験に使用できるまで生存したラットは24匹であった。この24匹をダイオキシン投与後、12時間、1日、2日、3日、4日、1週間、2週間、4週間、5週間で還流固定を行い、c-Fos陽性細胞の出現を検討した。ダイオキシン摂取後、大方のラットは、1〜6週間の間に死亡した。ラットは、ダイオキシンを経口投与した3日目より食物摂取量が減少し始め、それとともに、体重減少が見られた。そして、ダイオキシン投与3〜4週目には最低体重になった。ダイオキシン投与3日または4日目に、視床下部のうち、背内側核、室傍核、内側視索前核および扁桃体中心核、分界条床核外側部に対照群に比較して、最も大量のc-Fos陽性細胞が出現した。さらに1〜5週間後のラットでこれらの部位のc-Fos発現の検討を重ねると、扁桃体中心核および分界条床核外側部のそれが持続していた。一方、海馬、大脳皮質、小脳、線状体、黒質、嗅球では著しいc-Fos陽性細胞の出現はみられなかった。
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