強迫性障害(OCD)患者の多様性に関する多角的臨床研究について、主に3つの視点から検討した。 最初は「洞察レベル」を基準とするもので、強迫症状の不合理性に関する洞察を客観的に評価し、「洞察良好群」、「不良群」間の比較を治療反応性など多角的に行い、洞察を基準とした場合の臨床的有用性を検討した。結果は、洞察レベル自体が経時的に変動したが、治療後も洞察不良を維持した患者は治療抵抗的であった。この様に、初診時の洞察レベルは改善する可能性はあるが、不良な状態を継続する患者はより精神病理学的問題が重度で治療抵抗的であり、DSM-IVの「洞察に乏しい場合」の亜型分類を一部支持するものであった。次に強迫症状を「生涯」の中で評価するlifetime symptom typologyを用いて、「汚染/洗浄」、「確認」、及び「両者を併有する群」に分け長期的に比較検討した。その結果、「汚染/洗浄」と「確認」群間には精神病理学的および治療反応性における差を認めず、一方「両者を併有する群」はより重度で、治療抵抗的であった。この結果は、OCDの中でも多様な症状を経験している患者は、subtypeを形成する可能性が窺えた。さらに症状を基準とした亜型分類の妥当性を検討する為に、従来の報告において単一のsubtypeとされている「「汚染/洗浄」患者について、強迫観念の内容(汚染恐怖の対象)を基準に3群に分けて比較検討した。この結果は「汚染/洗浄」の高度の均質性を支持するものであり、このsubtypeの妥当性が窺えた。これらはいずれも、既に雑誌論文として投稿し受理されている。また上記以外にも、チックなど神経疾患の既往を有する患者の治療について検討し報告を行った。今後はさらに、生物学的見地からこれら結果を検証し、推論を裏付けして報告していく予定である。
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