研究概要 |
ウェスタンブロット法による解析から,アンチセンス法によるNMDA受容体NR1サブユニット(以下NR1)の発現抑制の検討結果は,NR1タンパク量がNR1に対するアンチセンス(NR1-AS)群において,コントロール群より有意に減少しており,その程度は約30%程度であった。同時にGluR2/3受容体タンパク質量は変化がみられなかった。また時間経過としては,投与から3日後より,発現抑制が生じ,14日後には元のレベルに回復していることが分かった。このことから,アンチセンス法とHVJ-リポソーム法の組み合わせは標的たんぱく質を特異的に発現抑制することが可能であることを意味しており,将来の神経科科学研究手法の一つとして非常に有用な方法を提示できたものと考えられる。 自発運動量は,NR1-AS群とコントロール群の間で有意な差は見られなかった。 モリス水迷路試験においては,NR1-AS投与群もコントロール群も試行を繰り返すに従って,プラットフォームへの到達時間は短縮し,空間記憶学習機能に有意な差は認められなかった。すなわち海馬でのNR1の30%の発現抑制では空間記憶機能は障害されないと考えられた。 NR1が発現抑制されている投与6日後での,プレパルスインヒビション(PPI)では,NR1-AS投与群で有意にPPIが障害されていた。一方,NR1の発現抑制の回復が確認されている14日後においてはPPIの有意な差は見られなかった。PPIは直接的には高次の感覚情報制御機構を反映し,間接的には認知機能を反映すると考えられている。以上より,NR1の30%発現抑制では空間記憶機能の障害は見られないものの感覚情報制御機構の障害だけが見られる,ということが分かった。
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