低酸素下に曝される固形癌細胞が、血液中にあるため低酸素に曝されることのない白血病細胞より抗がん剤耐性であることが従来より報告されており、低酸素下に曝されることによって新たに誘導される蛋白が抗がん剤耐性に関与しているのではないかという仮説に基づいて研究がスタートした。 まず低酸素環境下で増殖しているとされる膵癌細胞株における低酸素誘導転写因子(hypoxia-inducible factor-lalpha;HIF-lalpha)の発現について検討した。通常は、低酸素下でのみ発現するとされているHIF-lalpha蛋白を膵癌細胞株20株中15株が正常酸素分圧下でも発現しており、正常酸素分圧下でHIF-lalpha蛋白を発現している膵癌細胞株は、そうでない膵癌細胞株に比較してアポトーシス抵抗性であった。正常酸素分圧下でHIF-lalpha蛋白を発現していない膵癌細胞株にHIF-lalpha蛋白を強制発現させるとアポトーシス抵抗性を獲得した。これらの結果は、低酸素下で誘導されるHIF-lalpha蛋白発現がアポトーシス抵抗性を付与していることを示唆する。 HIF-lalpha蛋白がどのようにアポトーシス抵抗性を付与するのかその機序を明らかにする目的で、dominant negative HIF-lalpha導入株の樹立と低酸素下で新たに発現してくる遺伝子群の同定を行った。Vector導入株ではCDDPによるアポトーしあう誘導が約半分に減少するのに対してdominant negative HIF-lalpha導入株ではCDDPによるアポトーシスが正常酸素分圧下と低酸素下で変化なく誘導された。この結果は、HIF-1によって転写活性化する遺伝子産物がアポトーシス抵抗性に関与していることを示唆する。DNA microarrayにて検討したところ、白血病にて発現亢進してくることが報告されていたpim-1遺伝子産物が低酸素にて発現亢進することが判明した。Pim-1遺伝子産物はserine/threonine kinaseでanti-apoptoticな作用を持っていることが報告されている。 現在、膵癌細胞においてpim-1遺伝子産物とアポトーシス抵抗性の関連について検討している。
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