固形癌細胞株のほとんど全てにおいて低酸素下でのHIF-1α蛋白の発現を認めた。固形癌の中でも膵癌細胞株の大部分が(75%)HIF-1α蛋白を恒常的に発現していることを見出した。HIF-1α蛋白を恒常的に発現している膵癌細胞がアポトーシス抵抗性を獲得していたため、HIF-1α蛋白の機能を阻害するdominant negative HIF-1α遺伝子を導入した膵癌細胞株を樹立した。HIF-1α蛋白がアポトーシス耐性に関与しているとすれば、dominant negative HIF-1α導入によってアポトーシス耐性を解除出来るのではないかと考えた。dominant negative HIF-1α導入株においては、低酸素と低グルコースによるアポトーシス誘導に対して感受性が亢進した。また、抗癌剤CDDPに対して低酸素下では感受性が約半分になるが、dominant negative HIF-1α導入株においてはほぼ同様な感受性を示すことを認めた。さらにdominant negative HIF-1α導入株は、SCIDマウスにおける造腫瘍性を失っていることを見出した。これらの事実は、HIF-1α蛋白がアポトーシス耐性に重要な役割を果たしていること、生体内増殖にも重要な役割を果たしていることを示唆する。 今回の研究で、白血病細胞の抗癌剤感受性を検討する過程で、骨髄単球性白血病細胞がTaxo1に非常に感受性の高いことを見出した。その機序を検索する過程で、Taxolの骨髄単球性白血病細胞に対するアポトーシス誘導がMyD88と呼ばれるシグナル伝達機構を介しておこることを見出した。この機構は、従来のTaxolの抗腫瘍効果(アクチン重合安定化を介した分裂阻害)以外に新しい抗腫瘍機構が存在することを示唆する。
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