骨髄移植、末梢血幹細胞移植に続く第3の造血幹細胞移植治療法として臍帯血移植(cord blood transplantation : CBT)が最近注目されている。しかし、CBTは移植後の造血幹細胞の骨髄微小環境への生着に時間がかかることが大きな問題となっている。とくに、血小板の生着遅延は平均90日に及ぶ。CBTで移植細胞の生着に時間がかかる理由に、ひとつの臍帯血ユニット中に含まれる細胞数が少ないことがあげられ、臍帯血幹細胞の増幅が盛んに試みられている。しかし、移植された臍帯血中の造血幹細胞がすべて骨髄にホーミングし生着するわけではなく、わずか数パーセントであると考えられている。この意味で移植されたひとつひとつの造血幹細胞の患者骨髄への生着率を高めることができれば、臍帯血移植において細胞数が少ないために生じる欠点を補うことができると考えられる。本研究では、移植細胞の骨髄への生着を制御している因子を明らかにし、その機序を解明することを目的として研究を行い以下の点を明らかにした。 Bリンパ球造血前駆細胞の増殖を支持する培養系を開発し、もちいたストローマ細胞から数個の遺伝子をクローニングした。そのなかにSDF-1が認められたことから、その受容体(CXCR4)抗体をもちいてヒト骨髄からCD34^+CXCR4^+細胞とCD34^+CXCR4^-細胞をソーテイングし、各分画の機能を検討した。CD34^+CXCR4^-細胞は顆粒球系、赤芽球系、巨核芽球系、T、Bリンパ球系前駆細胞を含めたすべての血球に分化しうるが、CD34^+CXCR4^+細胞からはT、Bリンパ球系前駆細胞のみしか出現しないことから、リンパ球系幹細胞はCD34^+CXCR4^+であり、また多能性造血幹細胞はCXCR4^-と考えた。臍帯血中の造血幹細胞におけるCXCR4の機能的発現を検討したところ、骨髄中の造血幹細胞とは大きく異なる結果が得られた。この差異を詳細に解析した結果、臍帯血中の造血幹細胞は骨髄へホーミングし生着するのにCXCR4の発現を必要としている可能性があることが見い出された。
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