研究概要 |
1.抗凝固因子トロンボモジュリン(thrombomodulin ; TM)について 大動脈・冠状動脈バイパス(ACバイパス)手術にグラフトとして用いられる大伏在静脈内皮細胞のTM発現は、動脈血流にさらされて減少するため、in vivoで30分間クランプしたラットの大静脈へのTM遺伝子導入を行った。ウイルスベクターを用いず、トランスフェリンとその受容体の結合を利用し、リポソームを用いて容易に効率のよい遺伝子導入を行う独自の手法で、良好なTM遺伝子、蛋白発現をなし得た。動脈血流下でのトロンビン形成の低下をもたらすことも確認した。 2.凝固因子組織因子(tissue factor ; TF)の発現、VII因子活性化機序について心臓外科手術時の体外循環では、血小板やcirculating microvesiclesを介した即時的なTF発現と単球中のTF転写活性上昇という2つの機序で外因系凝固活性化が起こっていることを見出した(Thromb Haemost, in press)。また、各種プロテアソームインヒビターが、一種のストレス刺激となってp38とactivator protein 1経路を活性化し、TF発現を転写レベルで上昇させることを見出した(Thromb Res, in press)。Factor VII activating protease(FSAP)活性化に関わる物質を探るため、各種細胞のconditioned mediumをさまざまなプロテアーゼインヒビターや熱・トリプシン処理、糖鎖の酵素処理、脂質の除去、核酸の分解を行った後、FSAP活性化能を比較した。その結果RNAが、FSAPの活性化に関わっていることを発見した。FSAPとRNAが直接結合することも証明し、血液凝固開始に核酸が関与する、という新しい概念を提唱しつつある。 3.蛋白欠乏症と細胞内輸送障害に関する研究プロテインCは重要な血液凝固抑制因子で、その欠損は血栓症をひきおこす。我々が報告した先天性欠乏症例の2種のプロテインC変異分子Arg178(CGG)→Gln(CAG)、Cys331(TGC)→Arg(CGC)のcDNAをCHO細胞に遺伝子導入して発現させると、細胞外には分泌されず、細胞内に留まっていた変異プロテインCは2時間以内に分解が始まり、その間にN型糖鎖のグルコースのトリミングも起きていた。マンノーストリミングを阻害すると分解が阻害され、変異プロテインCはマンノーストリミングを分解シグナルとして、プロテアソームで分解されることを見出した。
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