私たちは、血液悪性疾患において受容体型のチロシンキナーゼの転座遺伝子として、t(5;14)(q33;q32)転座におけるCEV14-PDGFβR融合遺伝子、非受容体型チロシンキナーゼの転座遺伝子としてt(9;12)(q22;p13)転座におけるTEL-Syk融合遺伝子を分離同定し報告した。今年度は後者の転座遺伝子を検討した。私たちはM7と診断された患者においてt(9;12)(q22;p12)の染色体転座を持つ症例を経験した。12番染色体上の短腕p12には、白血病においてしばしば転座により融合遺伝子を形成するTEL遺伝子が存在するため、TEL遺伝子を用いてサザンブロット解析を行ったところ、再構成バンドを得た。TEL近傍において染色体再構成を起こしていることが判明したため、PCR RACE法によりTELと融合する相手遺伝子を検索したところ驚いたことにその遺伝子はSYK遺伝子として既に報告されているものであった。SYKは非レセプター型のチロシンキナーゼで血液免疫系の細胞全体に発現しており、様々な機能に関与している。SykはB細胞レセプター、FcγレセプターなどのITAMモチーフに結合し、細胞内でのシグナル伝達を仲介しているが、TEL-Syk融合遺伝子では、そのシグナルに異常が生じ発癌に大きく関与していると考えられたため、融合遺伝子全体をクローニングし検討をおこなった。TEL-Syk融合遺伝子をIL-3依存性マウス白血病細胞株であるBaF3にレトロウイルスベクターを用いて遺伝子導入したところ、BaF3(BaF3/TEL-Syk)をIL-3非依存性にトランスフォームすることが判明した。一方、TEL遺伝子の多量体化に関与するPNT領域を欠失したTELΔPNT-Sykを導入したBaF3(BaF3/TELΔPNT-Syk)では、IL-3非依存性の細胞増殖が得られず、IL-3を除去すると細胞は死滅した。これらの細胞において、SykのC末端領域に対する抗体で免疫沈降を行い、抗リン酸化チロシン抗体PY20でウエスタンブロットを行ったところBaF3/TEL-Sykにおいてのみ、Sykチロシンキナーゼの恒常的活性化が認められた。このことから、TEL-Syk融合遺伝子においては、TELのPNT領域がSykの恒常的活性化に重要な役割を果たしており、Sykチロシンキナーゼの恒常的活性化が、BaF3細胞のIL-3非依存性の増殖を可能にしていると考えられた。
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