私たちは、血液悪性疾患において受容体型のチロシンキナーゼの転座遺伝子として、t(5;14)(q33;q32)転座におけるCEV14-PDGFβR融合遺伝子、非受容体型チロシンキナーゼの転座遺伝子としてt(9;12)(q22;p13)転座におけるTEL-Syk融合遺伝子を分離同定し報告した。 本研究の結果からTEL-Syk融合タンパクは、MAPキナーゼ、PI3キナーゼ系およびSTAT5などのシグナル伝達分子を恒常的に活性化し、これらが血液悪性疾患の病態と関連があると考えられた。Sykの阻害剤であるPiceatannolは、TEL-Syk遺伝子を導入したBaF3細胞の増殖および、STAT5の活性化を阻害したが、IL-3存在下でのBaF3の増殖もかなり阻害し、Sykチロシンキナーゼに対する特異性に不満が残った。TEL-Syk融合遺伝子は、Sykチロシンキナーゼに対する阻害薬を開発することに対して有用であると思われる。また、蛍光抗体法でTEL-Syk融合タンパクの細胞内局在を観察したところ、細胞質に局在が見られた。 もう一つの融合遺伝子CEV14-PDGFRβのチロシンキナーゼが活性化しているか確認するため、まずshort及びlongのCEV14-PDGFRβの発現ベクターを293細胞にトランスフェクトし、細胞のライセートをPDGFRβ抗体を用いて免疫沈降を行った。次に免疫沈降物をウェスタンブロットし活性化チロシン抗体を用いた検索を行ったところshort及びlongいづれにおいてもCEV14-PDGFRβのチロシンの活性化を示す結果が得られた。CEV14-PDGFRβ融合遺伝子においてはPDGFRβ遺伝子の細胞外領域がCEV14遺伝子と置き替わることにより、PDGFRβのチロシンキナーゼの恒常的活性化が引き起こされ、この症例において白血病のクローナルエボルーションに関与したと考えられる。
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