細胞分化は様々な因子により制御されており、その制御分子に転写因子がある。したがって、転写因子の異常は細胞分化を抑制し、ひいては癌化の一過程になる可能性が示唆される。Ikarosは幹細胞からリンパ球への分化に必要不可欠であることが、ノック・アウトマウスより明らかとなった。そこで、様々な白血病細胞株を用いIkaros遺伝子発現とその塩基配列を検討し、骨髄球系およびT細胞系の株にその異常は見られなかったものの、B細胞由来の細胞株において転写因子としての機能部位であるDNA結合部が欠損していることをみいだした(実際、細胞株から抽出した蛋白にDNA結合能は見られなかった)。異常なIkaros蛋白は細胞質から核への移行もみられなかった。これらのことはIkaros蛋白が機能的に欠損しており、このことが癌化に寄与している可能性が示唆された。新鮮白血病細胞を用いた同様の検索においてもDNA結合部を持たないIkaros遺伝子発現は成人急性Bリンパ性白血病の半数に見られ、その特徴としてCD19+CD10+CD20+の分化型B細胞性白血病であった。成人健常人の骨髄内で同様の表面抗原を持つ細胞をcell sorterにて回収しIkaros遺伝子異常を検討したが、その異常は検出できなかった。これらのことはIkaros遺伝子発現異常が白血病細胞に特異的にみられる現象であり、癌化の一過程である可能性が示唆された。成人と小児白血病細胞におけるIkaros遺伝子異常の発現差異の検討では、異常は、(1)急性Bリンパ性白血病において成人は分化型白血病に高頻度に見られることに比べ、小児ではより未分化型に多いこと、(2)急性Tリンパ性白血病、急性骨髄性白血病では小児にのみ見られること、が明らかとなり成人と小児白血病におけるIkaros遺伝子発現異常が大きく異なっているおり、Ikarosを含めた癌化機構は成人、小児において異なっていることが示唆された。
|