骨髄で産生された好中球は血中へと流出し、続いて血管壁を通過して組織へと向かう。好中球が血管壁を通過する機序としては、まず好中球がセレクチンを介して血管内皮細胞と弱い接着を起こして血管内皮細胞(HUVEC)表面をrollingする。続いてβ2インテグリンやICAM-1をはじめとする接着分子を介してHUVECと強く粘着し、やがて好中球は血管内皮細胞間を通り抜けて組織に到達する(トランスミグレーション)。これらの過程は接着分子の作用や液性因子によって複雑に調節される。調節因子の1つとしてNOが重要な役割を果たしている可能性が指摘されている。そこで好中球がHUVECをトランスミグレートする機序の1つとして、NOによる制御機構を明らかにすることとした。 研究の結果、以下の点を明らかにした。 (1)NOの産生部位:NOはHUVECで産生されることを以下の所見から結論した。 NOを添加すると好中球のトランスミグレーションは抑制されること。 NO消去剤で増強すること。 NO産生阻害剤によってHUVECを処理すると増強すること。 (2)NOが作用する部位:好中球であることを以下の所見から結論した。 NOを産生するHUVECと作用させた時、好中球内にNOが確認される。 NOを添加すると好中球のトランスミグレーションは抑制される。 HUVECにNOを作用させても好中球のトランスミグレーションは変化しない。 これらの所見は(1)のNOがHUVEC由来であることを支持した。 (3)NOが作用した好中球内に起こる変化:guanylate cyclaseが活性化されること、そしてこれがトランスミグレーションに重要な役割を果たすことを確認した。 以上、本研究により好中球が血管内皮細胞をトランスミグレートする機序の一部を明らかにした。
|