研究概要 |
本研究は非受容体型チロシンキナーゼARG蛋白の生理機能を理解する事を目的にしているが,その手段として最近白血病患者検体より検出された転座型ARG融合遺伝子であるところのTEL/ARGを利用して解析を開始した.まず,同白血病細胞よりRT-PCRで作製したTEL/ARG cDNAを,各種細胞株(Rat-1,NIH3T3,Ba/F3)に導入して恒常的に強制発現させた.その結果TEL/ARGチロシンキナーゼの恒常的な活性化,と同時に生理作用ではRat-1細胞にて軟天培地でのコロニー形成能の取得,IL-3依存性Ba/F3細胞にてIL-3非依存性増殖への形質転換を観察した.興味深い事にこのチロシンキナーゼならびに生理的な活性は低分子チロシンキナーゼ阻害薬の一つであるSTI571により阻害される事を確認した.この結果よりTEL/ARG遺伝子の白血病への関与と,同遺伝子を発現した白血病へのSTI571治療の適応が示唆された.しかしこの方法は強力なプロモーターにて恒常的にTEL/ARG遺伝子を発現させる為,増殖に影響する他の遺伝子にも異常が付加されている可能性が否定できない.この欠点を補うべく,TEL/ARG遺伝子のテトラサイクリンによる誘導発現型を作製してさらにARGキナーゼによる作用の詳細な検討を試みている. 具体的に今年度は,テトラサイクリン誘導規制遺伝子を導入したBa/F3(pTet-on Ba/F3)を作製し,その細胞株にテトラサイクリン誘導発現ベクター(pTRE)に組み入れたTEL/ARG cDNAを導入した.この時ハイグロマイシン耐性遺伝子を共導入して薬剤選択を行った.来年度は得られたTEL/ARG蛋白誘導発現細胞株を用いてTEL/ARG蛋白の発現,ARGチロシンキナーゼの活性化に伴う細胞の生物学的ならびに生化学的な作用の検討を予定している。
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