1.巨核球胞体突起形成(PPF)刺激因子の精製 われわれは、PPFを刺激する因子を正常ヒト血漿から精製・単離し、N末端のアミノ酸配列を決定したところ、刺激因子はアンチトロンビンIII(ATIII)であって、そのin vitro活性発現にはhigh density lipoprotein (HDL)が必須であることを世界で始めて報告した。刺激因子としてATIIIを含んだHDL分画を正常ヒト血漿から精製し、以下の実験に用いた。 2.PPF刺激因子に反応する巨核芽球性白血病細胞株の選択ならびに血小板産生系の確立 巨核芽球性白血病細胞株(MEG)を上述のATIII/HDLと培養後、血小板を産生する系を確立した。MEGをマイクロウエロ内にまき、無血清下、ATIII、ATIII+HDLを濃度を変えて加えた。12時間、24時間後にPPFを生じているMEG数を測定した。ATIIIのみではほとんどPPFを生じているMEGは認めなかった。ATIII(100μg/ml)+HDLの添加でHDL0μg/ml、1.1%、50μg/ml 30.8%、100μg/ml 46.5%、200μg/ml 57.8%と濃度依存性に増加した。 3.シグナル伝達に関与するキナーゼならびにフォスファターゼ阻害剤を加え、上記の刺激因子による細胞株の反応性が阻害されるかどうかの検討 上記のアッセイ系(ATIII+HDL)に、シグナル伝達系の阻害剤を加え、PPF刺激能の阻害程度を観察した。同時に、トリパンブルーで生存率も測定した。PD98059(MAPK阻害剤)、LY294002(PI3K阻害剤)、SB203580(p38 MAPK阻害剤)、KT5720(Protein Kinase A阻害剤)、BIM(Protein Kinase C activator阻害剤)、Y27632(Rho kinase阻害剤)を100nMから100μMまで用いた。生存率は使用した阻害剤の濃度ではKT5720を除いて全て85%以上であった。LY294002、SB203580の100μM添加ではコントロールの141.1%、144.3%と有意に活性化されたが、BIM、Y27632添加では有意に濃度依存性(BIM:100nM 70.7%、500nM 66.9%、1μM 54.0%、10μM 4.5%、100μM 5.6%、Y27632:100nM 97.6%、1μM 88.5%、10μM 61.3%)に阻害された。 以上より、ATIII+HDLの刺激によって起こされる巨核球のPPFはProtein Kinase C (PKC)系とRho kinase系のシグナル伝達が大切な役割を担っていることが強く示唆された。
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