1.カニクイザルES細胞への遺伝子導入:サルES細胞への効率のよい遺伝子導入をめざしてレトロウイルスベクターおよびレンチウイルスペクターを作成した。そのなかでも、サル免疫不全ウイルス(SIV)をベースとするレンチウイルスベクター(SIVベクター)が、サルESに対して極めて高い遺伝子導入効率を示した。マーカー遺伝子としてgreen fluorescent protein(GFP)遺伝子を発現するSIVベクターを用いると、カニクイザルES細胞の90%前後にGFP遺伝子導入が可能であった。しかも、この高いGFP遺伝子発現は、遺伝子導入後5ヶ月経ても続いた。さらに、GFP遺伝子を導入したカニクイザルES細胞から胚様体を作成したところ、GFP遺伝子の発現は衰えなかった。これはES細胞を初期分化させても導入遺伝子の「サイレンシング」が起こらなかったことを示す。これらの観察結果は、今までのレトロウイルスベクターでは実現できなかったことである。SIVベクターによる遺伝子導入法は、霊長類ES細胞の遺伝子操作の大きな武器になると思われる。 2.カニクイザルES細胞の血液細胞への分化誘導:カニクイザルES細胞を特殊なフィーダー細胞(OP9)上に置き、骨形成因子(BMP)-4の存在下で培養すると、浮遊細胞が出現する。この細胞は極めて未熟な造血細胞と考えられ、その表面マーカーなどの解析を行っている。 3.カニクイザルES細胞のマウスへの移植:上記2で得られた浮遊細胞に造血幹細胞が含まれるかどうかを調べるために、これらの細胞をNOD/SCIDマウスへの移植する予定である。また、これらの細胞をヒツジ胎仔へ移植した。一部のヒツジ胎仔はすでに帝王切開によって取り出した。現在、その体内にサルの血液が出来ているかどうか解析中である。
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