1.レンチウイルスベクターによる遺伝子導入 サル免疫不全ウイルス(SIV)ベクターを用いてサルES細胞への効率のよい遺伝子導入法の開発を行った。 (1)SIVベクターによる遺伝子導入:SIVベクターを用いるとサルES細胞へ高い効率で遺伝子導入が可能であった。しかもその遺伝子発現は長期間持続し、ES細胞を分化させても遺伝子発現は衰えなかった。 (2)SIVベクターの改良:ある特殊な塩基配列(cPPTとWPRE)の付加によって、導入遺伝子発現の増強が認められた。 (3)プロモーターの検討:一般的な汎用プロモーター(CMV、EFla、PGK)の内、EFlaプロモーターがカニクイザルES細胞において最も高い遺伝子発現をもたらした。 2.センダイウイルスベクターによる遺伝子導入 センダイウイルスベクターによってカニクイザルES細胞へ効率よく遺伝子を導入できた。同ベクターによってGFP(green fluorescent protein)遺伝子を導入したES細胞の分化能を検討した。in vitroでGFPを発現する血液および神経細胞への分化に成功した。また、NOD/SCIDマウスに移植したところGFPを発現するテラトーマを形成した。よってセンダイウイルスベクターはカニクイザルES細胞の分化能を損なわない。また、細胞の継代や分化に伴う導入遺伝子の発現衰弱は認められなかった。 3.カニクイザルES細胞の移植系の確立 カニクイザルES細胞の同種移植の系として、同細胞をカニクイザル胎仔4頭へ移植した。2頭は腹腔内へ、2頭は肝臓内へ移植した。いずれも妊娠経過は順調であった。これらのサル胎仔では、広範な組織に移植細胞の生着を認めた。胎仔にはとくに前処置を加えなくても移植した幹細胞が生着できるスペースが存在すること、生着した細胞はその場に応じた分化を遂げること、移植細胞は拒絶されないことが明らかになった。胎児細胞治療の根拠になるデータが得られたといえる。一方、1頭のサルではテラトーマ形成もみられたことから、臨床応用の際には未分化ES細胞の混入がないよう十分注意が必要である。
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