研究概要 |
ヒ素化合物は急性前骨髄球性白血病(APL)細胞のアポトーシス誘導を介して実際の患者にも有効であることが知られている。しかしながらその作用機構は明らかでなく、また臨床的には単独使用により致死的な肝障害や心毒性を示すことが報告されている。そこで今年度はより安全性の高いヒ素化合物の使用法を検討する目的で種々の白血病細胞に対するヒ素化合物と造血因子(GM-CSF,G-CSF,M-CSF,IL-3,IL-6,EPO,TPO,Flt3 ligand)の併用効果について解析した。われわれが樹立したレチノイン酸耐性APL細胞株UF-1に対してヒ素単独では、濃度および時間依存性にアポトーシス誘導を解して細胞増殖を抑制した。これに対し、ヒ素化合物にGM-CSFを併用するとUF-1細胞の分化が誘導された。G-CSFをはじめとする他の造血因子との併用では分化誘導効果が認められなかった。次にヒ素化合物のGM-CSFシグナル伝達に及ぼす影響を検討するために、GM-CSF下流の分子であるJakキナーゼの活性化について検討した。ヒ素単独ではJak2キナーゼに対する影響はなかったが、GM-CSFを添加するとJak2キナーゼはリン酸化された。さらにJak2キナーゼ特異的阻害剤AG490を用いることによりGM-CSFとヒ素化合物による分化誘導効果はキャンセルされ、アポトーシスが誘導された。以上の結果よりGM-CSFはJak2キナーゼのリン酸化を介してヒ素化合物のアポトーシスシグナルを阻止し、分化誘導シグナルを誘導することが考えられた。来年度は臨床応用を目指し、マウス白血病モデルを用いたGM-CSFとヒ素化合物のin vivoにおける効果を検討する予定である。さらに、DNAチップを用いてGM-CSFとヒ素化合物により発現調節される遺伝子を単離し、その機能解析を行う予定である。
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