「目的」成人T細胞白血病の原因ウイルスであるHTLV-IはT細胞だけではなく単球・マクロファージにも感染し、感染単球・マクロファージは神経・肺障害やブドウ膜炎などのHTLV-I関連炎症性疾患に重要な役割をしている。今回我々は単球・マクロファージにおけるHTLV-I遺伝子活性化機構を検討した。「方法」HTLV-I遺伝子はlong terminal repeat(LTR)領域への転写因子結合により制御されており、LTRを含むレポーターをヒトTHP-1株化単球細胞に導入した。「結果」LPSによるLTR領域活性化:THP-1単球において、LTR領域はp40Taxにより強力に活性化されたが、エンドトキシンの活性本体であるLPSも有意にHTLV-I LTR遺伝子を活性化した。LTR遺伝子は3つのGGAAサイトを有し、それぞれ5'側よりPuB1、PET、PuB2と称しているが、PETならびにPuB2を変異することにより、LPSによるLTR活性化は阻害された。しかし、T細胞におけるTaxによるLTR活性化にはGGAAサイトは必要とされなかった。これらはLTR領域が単球においてLPS依存性に活性化され、この活性化は単球特異的に少なくとも2つのGGAAサイトを介していることが明らかとなった。LTR・GGAAサイト結合転写因子の同定:LPS刺激THP-1細胞核蛋白とLTR GGAAシークエンスをプローブとして、ゲルシフトアッセイを行った。その結果、結合たんぱく質はEts1、Elf1などの抗体とは反応せず、PU.1に対する抗体と著明に反応した。さらに、THP-1細胞核蛋白の代わりに、遺伝子組み換えPU.1蛋白を用いた場合、PU.1蛋白は明らかな結合能を示した。この結果は、LPSによるLTR活性化には、PU.1のLTRへの結合が不可欠あることを証明した。さらに、PU.1はゲル移動度より他の蛋白と複合体を形成し、LTRに結合していることが明からかであり、その蛋白はIRF-8であることが示唆された。また、Tax刺激Jurkat T細胞では、LTRへのPU.1の結合は観察されず、単球特異的であった。「結語」以上、LPS誘導LTR活性化には単球・マクロファージ特異的転写因子PU.1のLTRへの結合が不可欠であり、一方、T細胞におけるTaxによるLTR活性化はこの蛋白を必要としなかった。HTLV-I感染単球・マクロファージは細菌感染などのエンドトキシン刺激により、単球・マクロファージ細胞特異的転写因子PU.1を通じて、強くHTLV-I遺伝子活性化を行い、T細胞とは異なるHTLV-I遺伝子発現機構が存在した。
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