私たちはこれまでに、マウス単球性白血病Mm細胞の移植性と関連して発現する新規遺伝子のcDNAをクローニングし、MmTRA1a(Mm-1 cell derived transplantability associated gene 1a)と名付けた。また、正常型であるMmTRA1b cDNAをクローニングした結果、MmTRA1aはMmTRA1bのN末欠損型であった。また、ヒトホモローグのクローニングを試み、正常型であるMmTRA1bに対するヒトホモローグを単離した。MmTRA1b蛋白質はその後クローニングが報告された細胞膜リン脂質スクランブレース1と一致する事を明らかにした。しかし、これらの詳細な性質、作用機作および臨床的意義については不明であった。そこで、平成13年度から平成15年度に行った研究から以下に示す点について明らかにした。 1.ヒト前骨髄球性白血病株細胞NB4はレチノイン酸(ATRA)処理による顆粒球への分化に伴って、正常型のMmTRA1b遺伝子発現を顕著に誘導した。 2.ATRAによる顆粒球への分化はアンチセンスMmTRA1bを強制発現する事で阻害され、一方、MmTRA1bを強制発現させたNB4細胞ではATRAによる分化誘導がさらに促進された。 3.ヒト前骨髄球性白血病患者から得られた新鮮白血病細胞でもATRA処理による顆粒球への分化誘導に伴って、MmTRA1b遺伝子発現が顕著に誘導された。 4.急性骨髄性白血病(AML)患者の骨髄細胞におけるMmTRA1b遺伝子発現を測定し、白血病患者の生存率との関係を解析した結果、MmTRA1b遺伝子の高発現はAML患者の長期生存と有意に相関していた。 このように、正常型のMmTRA1b遺伝子発現は前骨髄球性白血病細胞の分化誘導と密接に関連すること、および、MmTRA1b遺伝子の高発現がAMLの予後良好因子となることを明らかにした。
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