研究概要 |
一般にアンギオテンシンII(ATII)及びエンドセリン(ET)などの血管収縮性物質は腎障害性に働く傾向が見られる。昨年度我々は、その血管収縮性がATIIやETよりも強力であるウロテンシンII(UII)に着目し、UIIが循環ホルモンとして実際にヒト血液及び尿中に存在し、非透析腎不全患者、及び透析患者で血中濃度が有意に高いことを発見し、世界に先駆けて報告した(Totsune et al. Lancet 358:810-11,2001)。今年度は引き続き、UIIの腎障害の進行にはたす役割とその病態生理的意義を検討した。その結果、以下のような成果を得た。 1)ヒト疾患群での血中UII濃度: UIIに対するラジオイムノアッセイ(RIA)を用いて、糖尿病患者でも血中UII濃度が上昇しており、UIIが糖尿病性心血管腎障害の進展に深く関与していることを示唆する結果を得、報告した(Totsune et al. Clin Sci 1004:1-5,2003)。UII濃度と尿蛋白との間には有意な関係は認められなかった。 また、腎不全の無い本態性高血圧、褐色細胞腫、原発性アルドステロン症、クッシング症候群などの高血圧性患者群でも血中UII濃度を検討し、血中UII濃度が上昇する傾向を認めた(未発表)。 2)ヒト血管内皮細胞の培養細胞系を用いたUII産生制御機構の検討: ヒト血管内皮細胞にUII及びUIIレセプターのmRNAが発現していることを世界で初めて証明し、発表した(Clin Sci同上)。糖尿病患者では血管内皮障害を伴うことが多く、糖尿病の病態にUIIが深く関与している可能性が示唆された。 3)ヒト腫瘍の培養細胞系を用いたUIIの産生と細胞増殖作用の検討: T98G(glioblastoma),IMR-32,NB69,SW-13,Hela, VMRC-RCW(腎細胞癌)培養細胞系を用いた検討で、ヒト腫瘍細胞にはUII及びUIIレセプターのmRNAが発現していることを見出した。T98G細胞において、UIIによる有意な腫瘍細胞増殖作用は認められなかった(未発表)。 未発表の成果は平成15年の日本腎臓学会総会及び米国腎臓学会等にて発表予定である。
|