研究概要 |
尿蛋白による腎臓の間質尿細管障害の発症と進展の機序を明らかにする目的で実験を行った。 (1)マウスの蛋白負荷モデル:12週齢のBalb/cマウスの腹腔内に牛血清アルブミン(BSA)を連日14日間投与して、腎臓の間質尿細管障害を観察した。(1)組織学的検討:通常のBSA(Fraction V, Sigma)では強い間質尿細管障害が生じたが、脱脂したBSAでは間質尿細管障害は軽度に止まった。(2)BSA(Fraction V)中の脂肪酸分析:BSAに含まれる脂肪酸は主としてoleic acid, stearic acid, palmitic acid, linoleic acidであり、ヒトの血清脂肪酸とほぼ同様であった。 (2)培養マウス近位尿細管上皮細胞におけるBSAの取り込みの検討:培養液中にBSAを添加して、BSAがどの程度細胞内に取り込まれるかを見た。通常のBSAでは247ng albumin/mg proteinであり、脱脂したBSAでは494ng albumin/mg proteinであり、両者に有意差は見られなかった。 (3)ヒト脂肪酸結合蛋白(L-FABP)トランスジェニックマウスでの蛋白負荷モデル:ヒトのL-FABPの染色体遺伝子を導入したマウスを樹立して、腹腔内蛋白負荷を行った。(1)と同様に、脂肪酸を含むBSAを投与したマウスでは強い間質尿細管障害が、脱脂したBSAを投与したマウスでは軽い間質尿細管障害が見られた。脂肪酸を含むBSAを投与したマウスでは尿中のL-FABPの排泄が増加し、また、腎組織中のL-FABPの遺伝子発現ならびに蛋白発現量は著明に増強した。 (4)腎組織に浸潤しているマクロファージを免疫組織化学的に染色した。通常のBSA投与群では著明なマクロファージの浸潤を間質に認めたが、脱脂したBSA投与群ではマクロファージの浸潤は軽度に止まった。トランスジェニックマウスにおいても同様に、腎組織に浸潤しているマクロファージは通常のBSAを投与した群で著明であったが、これは野生型マウスで見られるマクロファージの浸潤よりも軽度であった。脱脂したBSAを投与したマウスでは遺伝子導入マウスと野生型マウスの間にマクロファージの浸潤には有意差が認められなかった。 考察と今後の課題:尿蛋白に含まれる脂肪酸が間質尿細管障害を惹起し、L-FABPの発現を増強させていることが明らかになった。今後はL-FABPの細胞保護作用を明らかにする必要がある。
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