本研究の目的は、申請者が従来より追求してきた腎疾患における補体および補体調節蛋白についての研究を更に発展させ、それに基づく新たな治療法を開発することにある。 13年度は、膜結合型補体調節蛋白であるDAFのノックアウトマウスに抗基底膜腎炎を惹起することにより、糸球体にある内在性のDAFの役割を調べた。DAF欠損動物では抗基底膜腎炎が重篤であり、内在性のDAFが免疫学的糸球体疾患において保護的役割を果たしていることが明らかにされた。 14年度は、よりヒトの腎疾患に近い慢性もモデルを利用するため、C6欠損ラットに5/6腎摘腎不全モデルを引き起こし、このモデルではC6の欠損が腎不全進行を抑制することを示した。本モデルの糸球体病変は非免疫学的機序によるものであり、この結果は蛋白尿の中に含まれる補体成分による尿細管間質障害が、腎不全の進行に深く関わっていることを明らかにするものである。 更に、新たな治療法開発の試みとして、膜結合型補体調節蛋白を遺伝子工学的に可溶型にしたものを、肝臓にアデノウイルスの系を用いて遺伝子導入することにより、流血中のリコンビナント可溶型補体調節蛋白が免疫学的糸球体腎炎を抑制することを、メサンギウム増殖性糸球体腎炎動物モデルを利用して明らかにした。従来の研究により、腎臓への直接の遺伝子導入は困難であることが分かっており、肝臓で可溶型のリコンビナント蛋白を産生させることが腎疾患に有効であることを示したことは、大変重要な知見である。また、生体に本来備わっている補体調節蛋白を治療に応用することは、その特異性や生体適合性などを勘案すると非常に理にかなった治療法であり、今後の更なる展開が期待できる。
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