腎への遺伝子導入は、腎疾患の理解を深めと治療方法の改革の可能性を秘めている。非ウイルスベクターによる従来の方法は、腎動脈、腎孟、尿管から糸球体、尿細管、線維芽細胞を標的にして行われたが、発現は低く、期間も1月未満である。傍尿細管毛細血管は拒絶反応の標的の一つであり、全ての進行性腎疾患に共通の尿細管間質の線維化において重要な部位である。傍尿細管毛細血管にアクセスするため、ラットの腎動・静脈をクランプして血流を遮断後、腎静脈から逆行性にlacZ発現プラスミドを注入した。免疫電顕で、lacZの発現は間質線維芽細胞特異的に認めた。遺伝子導入に伴う腎毒性は認められなかった。エリスロポエチン発現プラスミドをレポーターアッセイとして用いた。5秒以内、1mlのリンゲル液にDNAを溶解すると、エリスロポエチンの発現が最高であった。血清エリスロポエチン濃度と導入したDNA量には、100μgまでは容量依存性が認められた。RT-PCRで、導入遺伝子由来のエリスロポエチンのmRNAは、導入した腎だけで認めた。100μgのエリスロポエチン発現プラスミドを導入後、血清エリスロポエチン濃度は5週後にピーク値(208.3±71.8mU/ml)を示し、ゆっくり低下し、24週後には116.2±38.7mU/mlであった。同様のパターンが、2、30μgといった低容量でも認めた。エリスロポエチンの分泌による造血効果が認められた。さらに、ラットの腎静脈だけ血流を遮断し、腎静脈から逆行性にlacZ発現プラスミドを注入した。2秒以内、0.5mlのリンゲル液にエリスロポエチン発現プラスミドを溶解すると、エリスロポエチンの発現が最高であった。100μgのエリスロポエチン発現プラスミドを導入後、血清エリスロポエチン濃度は3週後にピーク値(423.8±320.1mU/ml)を示し、ゆっくり低下し、24週後には161.5±125.2mU/mlであった。今回開発した方法は、簡単、安全であり、高発現が長期間安定して得られ、傍尿細管毛細血管近傍の線維芽細胞特異的に遺伝子が導入されることから、将来ヒトへの応用が期待される。
|