シスプラチン誘発急性腎不全における近位尿細管細胞の細胞死に活性酸素が重要な役割をしていることが示されている、尿細管細胞死はアポトーシスとネクローシスの過程をとるが、活性酸素がいずれの過程の細胞死に関与しているのかは不明である。 今回の研究において、ラットにシスプラチンを静脈内投与して急性腎不全を惹起させ、活性酸素の一つで、強力な作用を有するhydroxyl radical scavengerであるdimethylthiourea (DMTU)を前投与して、急性腎不全発症を抑制した。その際の尿細管細胞アポトーシスの程度とその誘導蛋白であるp53発現の変化を検討した。 腎機能の指標である血清クレアチニンと組織傷害の程度は、DMTU前投与にて抑制できた。TUNEL法にて検討した尿細管細胞アポトーシスは、シスプラチン投与3日後から増加し、5日後には最大となった。アポトーシスに陥った細胞は、組織傷害が最も顕著であった髄質外層に多く認めた。DMTU前投与では、アポトーシスに陥った細胞を髄質外層の尿細管細胞に認めるものの、その程度はDMTU非投与と比べて、著明に減少していた。アポトーシス誘導蛋白であるp53陽性細胞を免疫染色法にて検討したところ、シスプラチン投与1日後に最大となり、局在は髄質外層の尿細管細胞に認めた。その後は減少した。DMTU前投与にて、P53陽性細胞は有意に減少していた。P38MAPKはシスプラチン投与にて、免疫染色にて髄質外層の尿細管細胞に染色され、8時間後に陽性細胞は最大となり、DMTU前投与で陽性細胞数は減少した。 以上の結果から、シスプラチン誘発急性腎不全において、活性酸素は髄質外層の尿細管細胞でのp38MAPK活性を介してp53発現を亢進させ、腎機能障害と尿細管細胞のアポトーシス発現に関与していることが示唆された。
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