腎疾患において糸球体血管内皮細胞傷害は糸球体硬化をおこし、これにより腎機能障害は進行すると考えられている。VEGFは血管内皮細胞に対し増殖刺激をはじめとして多彩な作用をもつが、最近血管新生作用とは別に、神経細胞や肝細胞に対する保護作用が報告され注目を集めている。腎ではVEGFは糸球体の発生、維持、修復に中心的に作用することが明らかになっている。ヒト腎炎症例ではVEGFの発現が硬化糸球体周辺の遠位尿細管で亢進しており、尿VEGFの測定から腎機能の低下に伴い腎組織でのVEGF産生が増加すると考えられている。これらのことからVEGFが残存ネフロンに作用して腎障害の進行を抑える可能性があると推測している。今回実験腎炎を用いてVEGFの糸球体に対する保護作用について検討した。Thy1腎炎では補体依存性にメサンギウム細胞が融解し、二次的に血管内皮細胞の破綻をおこす。腎炎の病理学的変化は使用する抗Thy-1.1抗体量に応じて変化した。通常量の抗体投与で見られる変化はヒト腎炎では見られない程の強い変化であり、その半量投与で適度の変化が得られた。この条件では、抗体投与後1日目ではメサンギウム融解と内皮細胞の破綻は見られたが、内皮細胞のアポトーシスは観察されなかった。生理的に重要なisoformであるVEGF121とVEGF165のリコンビナント蛋白を抗体投与前に用いると、ともにメサンギウム融解に変化を及ぼさなかったが、内皮細胞の破綻は抑えられた。この内皮細胞に対する保護作用はアポトーシス抑制を介したものではない点で興味深く、その機序について今後明らかにする必要がある。VEGF121とVEGF165はその生物学的作用の違いが最近注目されているが、両者の間に内皮細胞保護作用に差がなかったことは注目に値する。本研究から、糸球体VEGF活性の亢進は、内皮細胞傷害による進行性腎障害に対するユニークな治療法として、その臨床応用が期待される。
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