研究概要 |
我々はこれまでエリスロポエチン(EPO)誘発性高血圧の発症機序を培養血管平滑筋細胞や透析患者などで検討してきた。また、抗血小板薬が誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)を誘導して、NO産生を刺激して直接血圧低下をもたらしたり、血管平滑筋のアポトーシスを誘導して血管のリモデリングを介して血圧低下を惹起する可能性を報告してきた。本研究においては、血管平滑筋細胞におけるエリスロポエチンの情報伝達系をさらに深く掘り下げて検討して、高血圧の発症機序を解明したいと考えた。 平成13〜14年度は、EPOの血管平滑筋細胞の増殖刺激作用に対するcAMP-protein kinase A系の影響を,EPOの情報伝達の各stepにおいて検討した。これらの結果は、cAMPはEPOによるMAPK系の活性化を抑制するが、この抑制作用はRaf-1のレベルかその上流で調節される可能性を示している。またこれらの結果はcAMPの刺激薬は、エポによる直接作用に対して防御的に作用する可能性を示している。 平成15年度は、透析患者の末梢血から,血管内皮細胞の前駆細胞を分離して、EPO受容体のサブタイプ(完全長型と細胞内領域欠損型)の分布をPolymerase Chain Reaction法を用いて検討する予定であったが、結果はnegativeだった。従って、今回は透析患者において心血管系合併症が多いことの原因を検索する目的でこれら血管内皮細胞の前駆細胞数と機能を透析患者と年齢を合致させた健常対象者で比較検討した。結果は、末梢血のCD34陽性細胞、AC133陽性細胞いずれも透析患者は健常対照者に比べて減少していた。また、in vitroで培養しても透析患者ではこれら血管内皮細胞の前駆細胞数は減少していた。血中のVEGF濃度は両者で有意差は見られなかった。以上から、結論として循環血液中の血管内皮前駆細胞は減少していて、このことが透析患者では血管新生が障害され心血管系合併症が多いことに関連する可能性がある。 この報告は平成13年から平成15年の3年間,文部省より助成を受けた科学研究費補助金(基盤研究(C)(2))の研究成果の概要である.
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