進行性腎障害における活性酸素によるミトコンドリア及びミトコンドリアDNAの酸化的障害の存在とその意義を明らかにし、腎障害進展阻止の治療法開発に資することを目的として以下の研究を行った。 具体的には以下の課題の検証を行う。 1)腎疾患におけるミトコンドリア及びmtDNAの酸化的障害と臨床病態との関連の検討。 核酸の酸化的修飾の結果、グアニン塩基8位の水酸化産物、8-hydroxy-deoxyguanosine(8-OHdG)が生じる。腎疾患組織で免疫組織学的に8-OHdGの蓄積をまた尿中の8-OHdG量を定量した。糖尿病性腎症組織において8-OHdG蓄積及び尿中排泄量の増加を認めた。 2)進行性腎障害、糖尿病性腎症におけるミトコンドリア及びmtDNAの酸化的障害のメカニズムの解明。 部分腎摘モデル、STZ糖尿病モデルを作成し、分離糸球体から得たmtDNAを用いて、核酸の酸化的修飾、点変異、欠失の解析を行い、呼吸鎖関連遺伝子のmRNA発現変化を認めた。 3))活性酸素によるmtDNA酸化的修飾、ミトコンドリア膜電位変化とapoptosis誘導に関する解析。 mtDNAの酸化的障害はmtDNA遺伝子(呼吸鎖酵素関連遺伝子)発現変化を介して呼吸鎖機能の変化を惹起しうる。培養糸球体上皮細胞に酸化的障害を付加し、呼吸鎖酵素遺伝子の発現、呼吸鎖機能、ミトコンドリア膜電位の変化を評価した。活性酸素刺激はミトコンドリア膜電位変化を介してapoptosisを誘導する事が明になった。 5)遺伝的に規定される酸化的DNA障害の修復能及び抗酸化能と腎疾患の発症・進展との関連の検討。 酸化的に障害されたDNAを修復する酵素のひとつであるhuman 8-oxoguanine DNA glyxosylase(hOGG1)は8-OHdG化した塩基を除去し、DNAを修復する酵素である。hOGG1遺伝子には多型が存在し、酵素活性が異なる事が知られている。hOGG1遺伝子多型と慢性腎炎及び、糖尿病性腎症患者の腎機能予後等との関連を検討した。その結果、糖尿病性腎症の予後とhOGG1遺伝子多型との間に相関を認めた。
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