研究概要 |
発達期の脳は低酸素症に対して強い保護機構を持つことがよく知られている。しかし、そのメカニズムは多くの研究があるにもかかわらず明らかではない。私たちは、母体と臍帯でつながった胎仔のin vivo実験系をすでに開発している。この実験系を用いて、低酸素に対する胎仔脳の保護機構について研究を行った。本年度は低酸素負荷時の胎仔上丘の細胞内Caイオン濃度変化を調べた。低酸素負荷は臍帯を微少クリップで結紮(5〜10分間)することによって行った。結紮解除後は血管拡張剤(パパベリン)を結紮部に塗布することによって再還流した。細胞内Caイオンのプローブ(Fura2-AM)を胎仔上丘の表面に滴下し、90分間ロードした。細胞内Caイオン濃度変化は2波長方式(340/380nm)のCa画像測定装置(HiSCA)によって測定した。 臍帯を結紮すると短い潜時(〜30秒)で細胞内Caイオン濃度は緩やかに増加(10〜20%)した。臍帯の結紮を解除すると徐々にもとのCaイオン濃度レベルに戻った。このCaイオン濃度の増加はNMDA受容体阻害剤(AP-5,100〜300μM)の前投与によって阻害された(5例)。しかし、non-NMDA受容体阻害剤(CNQX,100〜300μM)によっては殆ど影響されなかった(5例)。これらの結果は、低酸素時において上丘の細胞内Caイオン濃度の増加はNMDA受容体を介したCaイオンの流入によることを示唆している。また、in vitroの実験系と比較するために、胎仔脳スライス標本を用いて、低酸素時の細胞内Caイオン濃度の観察を試みている。今後、さらに例数を増やし詳細に検討するとともに、細胞内シグナル伝達系の関与についても検討を加えて行かなければならない。
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