胎児脳は低酸素に対して強いことが知られている。特に分娩時において、胎児脳は長時間の間欠的低酸素状態となるが、生後、殆どの場合重篤な後遺症は見られない。私たちはその生理的メカニズムを明らかにするためにグルタミン酸受容体の関与に焦点をしぼり、以下の実験を行ったので報告する。 母体ラットと臍帯でつながった胎仔(胎生22日目)を用いて、臍帯結紮による低酸素実験モデルを作製した。低酸素負荷時の胎仔上丘の細胞内Caイオン動態を光学的イメージング法により測定した。実験に際して、母体と胎仔をウレタン麻酔した(腹腔内投与)。胎仔上丘の吻側部に双極刺激電極を留置した。電気刺激は1〜3mA(1、10Hz)で行った。[Ca2+]iの変化はCaイオン感受性蛍光色素(Fura-2)を用いて、光学的イメージング法により解析した。 1)胎仔上丘の電気刺激により、[Ca2+]iは急峻に上昇し、その後緩やかに元のレベルに戻った。この反応の最大値と持続時間は刺激強度に比例した。non-NMDA受容体の阻害剤(CNQX)投与によって、反応は減弱した。さらにNMDA受容体阻害剤(AP-5)投与により反応はほとんど消失した。最初の早い反応はCNQXにより阻害された、それに続く緩やかな反応はAP-5により大きく阻害された。GABA受容体阻害剤のビククリンを前投与すると反応はわずかに増強した。2)臍帯結紮によって、胎仔上丘の[Ca2+]iは緩やかに上昇した。結紮解除後、ゆっくりと回復した。CNQXの前投与によって、[Ca2+]iの上昇は減少、さらに、AP-5投与により大きく減少した。3)臍帯結紮解除から3時間後、臍帯結紮によって[Ca2+]iの上昇反応はみられなかった。また、電気刺激によって、[Ca2+]iは一過性に増加し、これに続く緩やかな反応は殆ど消失した。この一過性の反応はCNQXにより阻害された。 以上の結果から、胎仔脳は低酸素負荷の早い時期ではCaイオンはNMDA受容体を介して細胞内に流入する、しかし時間が経過するとNMDA受容体は機能しなくなることが示唆された。胎仔脳は低酸素に対して、NMDA受容体の機能を抑制することにより、過剰なCaイオンの流入による神経細胞の障害を防ぐための防御機構をもっていることが考えられる。
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