研究概要 |
これまでに我々は子宮外保育中のヤギ胎仔に対して低酸素負荷を行い、聴性脳幹反応の第V波、聴性中間反応のPa波においてその変化が著明であったことから、低酸素状態は中脳より中枢側の聴覚神経繊維に影響を及ぼす可能性を示した。今回は低酸素が胎仔の聴覚路に及ぼす影響に関して、病理組織学的検討を行った。 胎齢127日(満期148日)のヤギ胎仔5頭を臍帯動静脈A-V ECMOシステムを用いて子宮外保育し、循環動態が安定した時期に1時間の低酸素負荷を行い、負荷前および負荷中のABR, MLR及び生体パラメータを実験終了後に解析した。さらに、負荷実験終了後胎仔の脳を摘出し、聴覚路(蝸牛神経核、上オリーブ核、下丘、内側膝状体、聴皮質)にH.E.染色、Niseel染色、熱ショック蛋白(HSP)-72による免疫染色を行った。対照群として子宮外保育のみで負荷をかけないヤギ胎仔2頭と子宮外保育を行わず屠殺した同胞ヤギ2頭を用いた。 低酸素負荷を行ったヤギ胎仔においては、H.E.染色、Nissel染色では聴覚路に明らかな組織学的変化は認められなかった。HSP-72による染色では、対照群に比べ低酸素負荷を行った胎仔の蝸牛神経核、上オリーブ核にHSP-72の発現を多く認めた。下丘、内側膝状体、聴皮質ではHSP-72の発現は認めなかった。 HSP-72は低酸素ストレス下で防御的な役割を果たすと報告されている。今回の実験では聴覚路の脳幹部位である蝸牛神経核、上オリーブ核においてその発現を認め、下丘より中枢側では発現は少なかった。この結果は低酸素負荷が中脳より中枢側の聴覚神経繊維に影響を及ぼす可能性を示したABR, MLRの結果と一致し、低酸素が聴覚路に及ぼす影響が組織的にも示された。
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