研究概要 |
胎齢125〜129日(満期148日)のヤギ胎仔を臍帯動静脈A-V ECMOシステムを用いて子宮外保育し、循環動態が安定した時期に低酸素負荷を行い、胎仔の聴性脳幹反応(ABR)および聴性中間反応(MLR)の変化を解析することで、低酸素状態が胎仔の聴覚に及ぼす影響を検討した。低酸素負荷(PaO_2:12.8±0.9mmHg)により、平均動脈血圧が上昇し、頸動脈血流量が増加した。ABRでは第V波の潜時が延長し、振幅が低下した。MLRではPa波の潜時が延長し、振幅が低下した。これらのことから、低酸素状態は胎仔の中脳より中枢側の聴覚神経繊維に影響を及ぼす可能性が示唆された。次いで、負荷実験終了後胎仔の脳を摘出し、聴覚路(蝸牛神経核、上オリーブ核、下丘、内側膝状体、聴皮質)にH.E.染色、Niseel染色、熱ショック蛋白(HSP)-72による免疫染色を行った。対照群として子宮外保育のみで負荷をかけないヤギ胎仔2頭と子宮外保育を行わず屠殺した同胞ヤギ2頭を用いた。低酸素負荷を行ったヤギ胎仔においては、H.E.染色、Nissel染色では聴覚路に明らかな組織学的変化は認められなかった。HSP-72による染色では、対照群に比べ低酸素負荷を行った胎仔の蝸牛神経核、上オリーブ核にHSP-72の発現を多く認めた。今回の実験では聴覚路の脳幹部位である蝸牛神経核、上オリーブ核においてその発現を認め、下丘より中枢側では発現は少なかった。この結果は低酸素負荷が中脳より中枢側の聴覚神経繊維に影響を及ぼす可能性を示したABR, MLRの結果と一致し、低酸素が聴覚路、特に中脳より中枢側の聴覚神経繊維に影響を及ぼす可能性が組織的にも示された。
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